火災報知器

※こちらは、私が育てているハムスター「ななし」と友達のまおちゃんが育てているハムスター「ちろる」が人間だったらこんな恋をしているかもしれないと思って書いた作品です。正気の沙汰ではありません。ご理解がある人だけお読みください。

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学校、家族、塾…。何も不満がないはずなのに、心の奥底にあるフラストレーションが僕を動かす。静まり返った放課後、廊下の火災報知器を今日も鳴らしてしまう。

僕は、優等生で友達は少ない。誰も僕が火災報知器を鳴らしているとは、思わないだろう。

何が不満なのか分からない。今までの人生で、勉強に困ったことはなく、家庭環境も恵まれている方だ。淡々と過ごす毎日に飽きてしまったわけでもない。

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金曜日、クラスメイトが部活に励んでいる午後5時。いつものように火災報知器を鳴らそうとしていた。

「おい、何しているんだ!ななし」

叫んだのは、クラスメイトの村上ちろるだった。今の僕は火災報知器に触れる寸前、言い逃れはできない。

『ごめんなさい。誰にも言わないでもらえるかな』

「いいけど、何か嫌なことでもあったか?」

なぜ理由を聞かれないといけないのか。村上は、僕のことを下の名前で呼ぶ。学校で一回も話したことはないのに。距離が近くて、直感で苦手だと思った。

『別に…』

「このことを言わないかわりにさ…ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」

『何?』

「次の期末試験、赤点とったらマジでやばいから勉強教えてくれない?」

火災報知器を鳴らしていたことをバラされると困る。

『いいけど』

「よっしゃ!じゃあ月水金の放課後、図書室集合な。俺、部活行ってくるわ」

嵐のように去っていった。その翌週から僕と村上の自主勉がはじまった。

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「まじで分かんない…。点P動くなよ…」

『ここをXで代入してみて。Yの値が出るはず』

「えっ、ほんとじゃん。気がつかなった。ななしって頭良いんだな」

『…』

村上の距離の近さに戸惑うことはあったが、世間話をするでもなく勉強のことだけ話していたので居心地は悪くなかった。

そして思っていたよりも村上は地頭がよく、テスト範囲の単元をすぐに理解してくれた。

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『じゃあ、問題集p112~114の応用問題を解いてみて。できたら教えて』

気づいたら眠ってしまっていた。唇に何かが当たる触感で目覚めた。

「あ、起きたのか」

『え…さっきの何?』

「気のせいだって」

『気のせいじゃないよ。キスしたよね?』

「何が悪いの?」

開き直ったことに驚きを隠せず、フリーズしていたらまたキスをされた。

『なんでキスするの?』

「好きだから」

『僕は…僕は好きじゃない。嫌いだ!気持ち悪い』

そう叫ぶと、後ろを振り返ることなく図書室を出た。嘘であってほしい。明日になったら、何もなかったかのように振るまおう。

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翌朝学校につくと、クラスがザワついていた。

(ななしくんって、ちろるが好きだったんだね)

(バスケ部で1番モテているちろるくんに告白とか、身のほど知らずだよね)

どうやら、僕が村上に告白したと嘘を垂れ流したらしい。堪えきれず、村上を図書室に呼び出した。

『どうして…どうしてあんな嘘をついたの…』

「ななしの居場所が俺だけになれば好きになってくれると思って」

『逆効果だよ…。これからどうやって過ごしていけばいいんだよ…』

「俺と一緒に過ごせばいいじゃん。何が不満なの?」

『だって僕、村上のこと何も知らない…。勝手にキスするし、意味分かんないよ』

「これから知っていけばいいじゃん。俺はななしが好きなんだよ」

そう村上は小さく呟いた。とろけるような瞳。ぼーっと眺めていたら、甘く、噛みつくようなキスをされた。

頭が動かず、抵抗できない。いや、したくないんだと思う。認めたくはないけれど。しばらく動けずにいると、唇は首へ鎖骨へ下がっていき、鋭い痛みを感じた。

『痛い!』

「ななしに嫌いって言われて、俺はもっと痛かったよ」

痛みがどんどん強くなっていく。血が滲むような痛さ。容赦なく歯がくいこむ。

「これで痕がついたね」

「ちろるって呼んでよ、ねえ」

どんどんちろるに侵食されていく、侵食されていく…。

もう僕には学校に居場所がないし、ちろると二人で過ごしてもいいのかもしれない。学校の人気者ちろるが正しく、モブの僕が正しくないのだから。

毎日をそつなくこなしていくことが好き、変化が嫌いだと思ってこんでいた。

僕は変化が怖かったのだ。そんな恐怖をちろるは簡単に跳ね除けてしまう。火災報知器を鳴らしたのは、僕の抵抗で、求めていた刺激なのかもしれない。

火災報知器を鳴らすことよりも魅力的で、刺激的なちろる。夕日が差し込む放課後の図書室。二人きりの甘美な時間から僕は抜け出せないかもしれない。

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